こんにちは、会計士ブロガーの根本(@dujtcr77)です。
日本に帰ってきて、毎日のように本屋に通っています。
ルワンダだとKindleストアのような電子書籍でしか日本の本を読むことができません。
本屋にいるときのワクワクした気持ち、狙ってなかった本と目が合ったときのドキドキ。
やっぱり本屋は楽しい!
そして先日、1冊の本と衝撃の出会いがありました。
『殺人犯はそこにいる』
「文庫X」として話題になった本
出会った本のタイトルは『殺人犯はそこにいる』。
しかし表紙がすべてカバーに覆われてしまっているのです。
そしてそのカバーには「申し訳ありません」からはじまる言葉がぎっちりと表紙の裏まで並べられていました。
申しわけありません。
僕はこの本をどう勧めたらいいか分かりませんでした。
どうやったら「面白い」「魅力的だ」と思ってもらえるのか、思いつきませんでした。だからこうして、タイトルを隠して売ることに決めました。
この本を読んで心動かされない人はいない、と固く信じています。
この著者の生き様に、あなたは度肝を抜かれることでしょう。
こんなことができる人間がいるのかと、心が熱くなることでしょう。
僕らが生きる社会の不条理さに、あなたは憤るでしょう。
知らないでは済まされない現実が、この作品では描かれています。
このカバーを書いたのは盛岡にある「さわや書店 フェザン店」の書店員・長江さん。
カバーから得られる客観的な情報はたったの3つ。
- 500ページ超えであること
- ノンフィクション
- 値段
「この本を読んで心を動かされない人はいない…少し大袈裟すぎないか?」
カバーに書かれた紹介文を読んだときのわたしの正直な気持ちです。
「少しも大袈裟でなかった」
本を読み終えたばかりの今のわたしの感想です。
それと同時に「ああなるほど、多くの人の手に取ってもらうためにはこれが一番かもな」と納得もしました。
実際にこの本は話題を呼び、「文庫X」として話題をよび全国の書店に展開されることとなりました。
あえてその正体を明らかにして紹介します
私は直前まで迷いました。
- さわや書店の店員さんと同じように内容を隠して紹介するか
- 本の内容を明らかにして紹介するか
結果として内容を明らかにして紹介することに決めました。
理由はたった1つ。
この本をひとりでも多くの人に読んで欲しいから
「文庫X]として話題になりヒットしたのは2016年の夏。
約1年前です。
隠す手法でこの本を手に取らなかった人も、本の内容を隠さなければ読んでくれるかもしれない。
「おいおい、なんで本1冊でそこまで本気になってるんだ!?」
ここまで読んでくれた方はそう思ってるかもしれません。
読めばわかります。
血の通った人間であれば、本書を読んでアツくならないわけがない、そんな1冊です。
「お前の余計な前情報などいらない」という方は、これ以降は本書の内容に触れるのでご注意ください。
感想と内容(ネタバレ少しあり)
「北関東連続幼女誘拐殺人事件」の隠ぺいに迫ったノンフィクション
栃木県と群馬県の隣接する町で17年間のあいだに5人の幼女が誘拐されその姿を消しました。
- 1979年 栃木県足利市 福島万弥ちゃん5歳 殺害
- 1984年 栃木県足利市 長谷部有美ちゃん5歳 殺害
- 1987年 群馬県尾島町 大沢 朋子ちゃん8歳 殺害
- 1990年 栃木県足利市 松田真実ちゃん4歳 殺害(足利事件)
- 1996年 群馬県太田市 横山ゆかりちゃん4歳 行方不明
これらの事件はすべてある地点を中心に、半径10km圏内で起こっています。
その中の1つが「足利事件」。
これらの誘拐がすべて同一人物によるものと推測し、足利事件の犯人として逮捕された菅家利和さんの無罪を信じ釈放まで導いたのが著者の清水潔さんでした。
ご存知ですか?「北関東連続幼女誘拐殺人事件」。渡良瀬川を挟んで幼女2人の遺体発見。冤罪「足利事件」の現場が左手。対岸でもう1人…。なんと半径10キロ圏で5人の幼女が事件に巻き込まれ、今も未解決。 pic.twitter.com/mzNtY99Hb1
— 清水 潔 (@NOSUKE0607) 2015年5月20日
本書では、一連の誘拐事件に迫る清水さんの取材の軌跡を通じて、都合の悪い事実を隠蔽しようとする権力と屈折した報道をするメディアへ警鐘を鳴らす1冊となっています。
清水さんの気迫、そして関係者の想いに涙が止まらない
冤罪で逮捕された菅家さんは家族などに向けて刑務所から手紙を書いていました。
家ではきっとなにかのまちがいだとおもってますよね。どうか私をしんじて下さい。
あと一回税金(2,000円)が残っておりました どうかよろしくお願いします (市役所に)迷惑かけますがどうかよろしくお願いいたします。
自分が逮捕されても税金の心配をする菅家さん。
菅家さんが家族にあてたこの手紙を見たことが、清水さんが菅家さんの無実を信じたきっかけだっと言います。
そんな菅家さんは刑務所にいる17年の間に両親をなくしています。
十七年間、ずっと我慢してきました。警察官には謝って欲しいです…。
警察に捕まってすぐ、おやじは死にました。二年前に母親も死にました…。
間違ったでは済まないんです。人生を返してもらいたい。
辛かったのは菅家さんだけではありませんでした。
再審請求が棄却された翌日、菅家さんか収監されている千葉刑務所の前で佐藤弁護士が流した涙。
「本当に…もし神さまに一つだけ願いを叶えてあげると言われたら、菅家さんの無実といつも思っているんです…」
遺族、えん罪で逮捕された菅家さん、この作品の中ではたくさんの「被害者」が登場します。
そんな彼らの心からの叫びは、「涙が止まらない」なんて安っぽい表現では形容しがたいほど痛切なものでした。
清水さんは真犯人を特定している。しかし犯人ルパンは捕まっていない
一連の取材を通じて、清水さんは「北関東連続幼女誘拐殺人事件」の犯人を特定し見つけています。
(「一連の取材」と一言で片づけるのが申し訳ないほど、泥臭く、血のにじむような取材の日々だったようです)
その身体的な特徴から真犯人は「ルパン」と呼ばれています。
ルパンはまだ捕まっていません。
なぜか?
この本のサブタイトルに注目してください。
「隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件」。
そう、隠蔽されているのです。
誰に?
警察です。
本来であれば犯人を捕まえるはずの警察が、真犯人を逮捕できない理由があるのです。
その理由は、本書の核心に触れるので是非読んで確かめて欲しいと思います。
最後に清水さんはこのように書いています。
何度も何度も報じたぞ。
ルパンよ、お前に遺族のあの慟哭は届いたか。
お前がどこのどいつか、残念だが今はまだ書けない。
だが、お前の存在だけはここに書き残しておくから。
いいか、逃げ切れるなどと思うなよ。
リアル『僕だけがいない街』
少し余談となってしまいますが、この記事の目的は少しでも多くの人に『殺人犯はそこにいる』を手に取ってもらうこと。
なので最後に少し違う角度から本書の紹介をしたいと思います。
本書は私の大好きなマンガ『僕だけがいない街』とかなり共通項が多かったです。
おそらくこの一連の事件が元ネタになっているのではないかと思います。
- 幼女が連続して誘拐、殺害される
- 真犯人が捕まらない
- 代わりに冤罪で捕まった人物がいる
繰り広げられるストーリーもそこらへんのフィクション小説さながらの展開。
テーマがテーマだけに不適切な表現であることを承知で言うと、読み物としても本当に面白かったです。
さいごに:とにかく読んで欲しい
ブログを書く際は、「ペルソナを設定しろ」「だれか1人を思い浮かべて書け」と言われることが多いです。
しかし今回私はあえてそれを無視して欲張りました。
本当にひとりでも多くの人に本書を手に取って欲しい。
カバーにも書かれていた通り「知らない」では済まされない現実がこの本には記されています。
本を読んでいてこんなにも腹が立ち、涙があふれ、「何かをしたい」と思ったのははじめてです。
『殺人犯はそこにいる―隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件』
是非手に取ってみて下さい。
■同じ著者のおすすめ作品