ビジネス書大賞2016大賞を受賞した『HARD THINGS』を読みました。
目次
概要
内容
起業家時代のホロウィッツには、これでもかというほどの困難(ハード・シングス)が次々と襲った。
ドットコム不況が襲い、顧客が次々に倒産し、資金がショート。打開策を見つけてIPO(新規上場)を目指すも、
投資家へのロードショウ中には妻の呼吸が止まる。
上場してもパーティさえ開けないような状況でITバブルが弾け、株価は35セントまで急落。
最大顧客の倒産、売上9割を占める顧客が解約を言い出す、3度にわたって社員レイオフに踏み切らざるを得ない状況に――。
しかし最終的には、困難を切り抜け続けて、1700億円超で会社を売却するという大成功を収めた。壮絶すぎる実体験を通して、ベン・ホロウィッツが得た教訓とは何なのか?
リーダーへ、そしてゼロから何かを生み出そうともがき苦しむ人へ、著者がシンプルで説得力のあるアドバイスを贈る。
Amazon商品の説明 一部抜粋
ドラマや映画の主人公のように、次々と著者に襲い掛かる困難。
本書ではそんな局面で必ず使える法則やテクニックが紹介されているのではなく、著者自身がどう考え、どう困難に立ち向かったのかが記されています。その中で交わされる会話や感情表現がリアルでまるでドキュメンタリーを観ているようでした。
「吐き気と悪寒、本書を読みながら何度も何度も感じた症状である。」
という日本語版序文の書き出しから引き込まれる。
読み応えのある内容で記事に全体の内容をまとめるのは容易ではないため、印象に残った箇所を断片的に紹介していきたいと思います。
くそを食らわば一口で
著者であるベンがCEOを務めるラウドクラウドが業績の年間予測を達成出来ない見込みであることがわかった時のこと。
予測をどう修正するかについての議論において考えられる2つの選択肢。下方修正を最小に抑えて株価崩壊のリスクを減らすか、一気に予測を下げて再度修正することによる信用失墜のリスクを減らすか…
そこで業務担当のディブ・コンテがこう言います。
「われわれが何を言っても、いずれ死にます。予測を下方修正した途端、投資家の信用を失うのですから、全部の痛みを今、受け入れるべきです。楽観的な予測など、どうせ誰も信じません。くそを食らうときは一口でないと。」
男には生き様も大切ですが死に様でもその価値を問われると思っています。(親友からおススメされた北方謙三さんの『水滸伝』を読んでからそう思うようになった)
最善を尽くしてなお死ぬ、って時にはある種の開き直りと潔さが大事であるということを再認識しました。
どうしても嫌な事って後回しにしてしまいがちです。くそを食らうときは一口で。
まず売ってみること
事業の一部を売却し、製品開発をしていた時の事を振り返って。
たとえつらくても、正しい製品をつくる知識を得るには。もっと広い市場に出る必要があった。逆説的ではあるが、その唯一の方法は、間違ってもいいからまずは売ってみることだった。無残に失敗する危険はあるが、生き残りに必要なことをいち早く学べるはずだ。
特にこれからアフリカで戦っていこうとしたら、頭の中や机の上でじっくり考えてから行動するのは結果的に遠回りになってしまうかもしれません。
アフリカビジネスで有名な金城拓真さんも著書『世界へはみ出す』でこう言っています。
僕が途上国でビジネスをしているせいかもしれませんが、日本人は事を起こす前に考えすぎです。石橋を叩いて壊しちゃう感じです。もったいない。
正しい製品を見極めるのは顧客のすることではない
正しい製品を見極めるのはイノベーターの仕事であり、顧客のすることではない。顧客にわかるのは、自分が現行製品の経験に基づいて欲しいと思っている機能だけだ。
新しい事を始める難しさと面白さがこの一言に詰まっていると思います。
これは製品開発だけでなく、途上国開発にも当てはまるでしょう。
地域の人に何が欲しいか聞けばほぼ100%「お金」か「仕事」と帰ってくる。
彼らと時間を過ごし、話し、考える事で彼ら自身は意識していなかった潜在的なニーズを発見するのが途上国開発の面白いところです。
われわれが、今やっていないことは何か?
通常のスタッフミーティングでは、多くの時間をかけて、今やっていることをすべて見直し、評価、改善を行う。製品の開発、製品の販売、顧客のサポート、従業員の採用などだ。しかし、時としてやっていないことこそ、本来集中すべきことである場合がある。
この視点で物事を考えたことがほとんどなかったので、とても勉強になりました。何か一つのことに夢中になるとそればかりを見てしまい、視野が狭くなることがあります。
そんなとき「やっていないことは何か?」こう自分(達)に問いかける事で思わぬ問題や改善点が見えてくるかもしれませんね。
成功するCEOの秘訣?
残念ながら秘訣はない。ただし、際立ったスキルがひとつあるとすれば、良い手がないときに集中して最善の手を打つ能力だ。逃げたり死んだりしてしまいたいと思う瞬間こそ、CEOとして最大の違いを見せられるときである。
こちらはとても共感した部分。「死んでしまいたい」と思った時に一番「生きている」事を感じることが出来ます。
あがいてあがいて困難を突破する感覚はとても楽しいしワクワクする。
やるべき事に集中する
あまりに次々と困難が襲い掛かる著者はこう自問自答します。
「この事態に備えることは、できたのだろうか?」
しかし彼はあてもなく見ていた有名なフットボールコーチのインタビューを見て悟ります。
自分の惨めさを念入りに説明するために使うすべての心的エネルギーは、CEOが今の惨状から抜け出すため、一見不可能な方法を探すために使うほうがはるかに得策だ、やればよかったと思う事には一切時間を使わず、すべての時間をこれからきみがするかもしれないことに集中しろ。結局は、誰も気にしないんだから。CEOはひたすら会社を経営するしかない。
働きやすい場所をつくる
・物事がうまく進んでいる間は、良い会社はどうかはあまり重要はないが、何かがおかしくなったときには、生死を分ける違いになる事がある。
・物事は必ずおかしくなる。~(中略)~
事実、物事が悪い方向へ進んだとき、社員を会社に留まらせる唯一の理由は、その仕事が好きということだけだ。
これは会社だけでなく、家庭や、個人間でも当てはまりますね。
自分自身もそうでありたいし、「この仕事が好きだから」「この組織のためなら」「この人のためなら」…
そういう思いのある場所で働きたいし生きていきたいです。
最後に
学ぶことや考えさせられることの多い『HARD THINGS』。
CEOであるか否かに関わらず組織を率いたりリーダーシップを発揮する状況にいる、今後そのような立場になる予定であるという人には特におすすめできる本です。
ただ、幹部を解雇しなければならない場合の注意点など、自分の状況と照らして、まだいまいちイメージがわかない部分もありました。
それを差し引いても本書はとても読み応えのある、さすが大賞といった内容の本でした。