ジョージ・オーウェル『一九八四年』感想。これは「昔のフィクション」ではなく「今起きている現実」である

こんにちは、アフリカ在住ブロガーのぴかりん(@dujtcr77)です。

「読んでないのが恥ずかしくて読んだふりをしてしまう」

心当たりのある方、いるのではないでしょうか?
もしくはそんな雰囲気の友達を見たことがあるかも?

これは日本に限った話ではないようで、英国でも3人に2人は読んだふりをしたことがあると言います。
そしてその中で最も「読んだ」と嘘をついた本がジョージ・オーウェルの小説『一九八四年』
(参考:英国人の大半、読んでいない本も「読んだふり」=調査)

今回はそんな英国人が「読んでいないと恥ずかしい」と考える本、『一九八四年』の紹介と感想を書いていきます。

『一九八四年』あらすじ(ネタバレあり)

一九八四年[新訳版] (ハヤカワepi文庫)
このあらすじには、ネタバレ要素が含まれています。

世界に疑問を抱く主人公ウィンストン

1984年、世界は「ユーラシア」「イースタシア」「オセアニア」の3つの地域に分かれていた。

人々の生活や思想は国によって統制・管理され、自身の思想を持つことは「思考犯罪」という名の犯罪とされている。

イギリスはビッグ・ブラザーが指導するオセアニアに属し、人々は3つの階級に分けられていた。
(高い順に党中枢、党外郭、プロ―ル)

この世界では情報操作も行われており、現在に都合の良いように常に過去の情報(新聞、雑誌、本など)も改ざんが行われている状態であった。

こうした管理下にあるロンドンで、過去の書き換えを仕事とするウィンストンが本作の主人公である。

ほとんどの人間が、この体制に疑問も抱かず指導者であるビッグ・ブラザーを支持する。
そして国家が改ざんした情報を鵜呑みにし、自分の過去にすらも確信が持てない状況であった。

また彼らは、実際には存在の有無が明らかになっていない抵抗勢力のリーダー、エマニュエル・ゴールドスタインの存在を信じ彼への敵意をむき出しにしていた。

しかしウィンストンだけは違った。
自身も明確な過去の記憶を失いながらも、党の改ざんの証拠をつかみ、ビッグ・ブラザー政権に対して疑問と不満を抱いているのであった。

ジュリアとの出会い

党の一員である黒髪の女性ジュリアは、ことあるごとにウィンストンの近くに現れた。

「この女性はスパイで自分のことを探っているのでは?」
「密告される前に殺してしまおうか?」

そう考えるウィンストン。

ある日ジュリアはウィンストンに1枚の紙を渡してくるが、そこにはこう書かれていた。
「あなたが好きです。」

実はジュリアはウィンストンに想いを寄せているのであった。

2人は密会し、体の関係を持つようになる。
そしてプロ―ルの居住地に隠れ家まで借りて密会を繰り返した。

それが極めて危険な行為であると知りながら。

オブライエンとの接触

ウィンストンには接触を試みたいと思っている人物がいた。

それは党中枢で働くオブライエンという人物だ。

彼とは夢の中で一度だけ話したことがあり、彼から「きっと闇の存在しないところで会うことになるだろう」と言われてから、オブライエンはゴールドスタイン率いるブラザー同盟の一員なのではと考えていた。

オブライエンは彼に近づきたい気持ちはあったものの、確信がない以上それはあまりにリスキーなものであるためアクションを起こせずにいた。

しかしある日、オブライエンの方から接触があり、彼はまさしくブラザー同盟の一員であると知らされる。

そしてウィンストンはオブライエンからゴールドスタインが書いたとされている、社会の本質、そしてブラザー同盟の戦略が記された「あの本」と呼ばれる本を受け取り読むことになる。

拘束・拷問 そして…

ウィンストンが渡された本の中には、この社会の秘密が記されていた。

事実を知ったのもつかの間、ウィンストンとジュリアは思考警察に見つかり拘束されてしまう。

拘束中に出会ったのは、あのオブライエンだった。
実はオブライエンは党側の人間で、ウィンストンをやっかいな症例を持つ希少種として観察していたのである。

ひどい拷問を重ね、思考をコントロールされたウィンストン。

結局彼は恋人であるジュリアを裏切ることによって、更生したと見なされ解放される。

そして物語はこのように幕を閉じる。

でももう大丈夫だ。
万事これでいいのだ。
闘いは終わった。
彼は自分に対して勝利を収めたのだ。

彼は今、<ビッグ・ブラザー>を愛していた。

引用:『一九八四年』(ハヤカワEPI文庫)

感想・解説

トランプ大統領就任で再び人気になった本

『一九八四年』は、2017年の1月に話題になりました。

本書が刊行されたのが1949年のこと。
なぜ今年になって急に人気がでたのか?

それはトランプ大統領による就任演説がきっかけでした。

前提として、本書には「二重思考」と呼ばれる考え方があります。
国民の操作に使われていた思考方法で、簡単に言うと相反する2つの事実を信じ込むこと。

トランプ政権のショーン・スパイサー大統領報道官が大統領の就任演説について「過去最高」の規模だと発言。
しかし実際には全くその逆でした。

トランプ大統領の側近ケリアン・コンウェイがその後、これは誤りではなく「別の事実(alternative facts)」と言ったことで、『一九八四年』の二重思考が注目を集めたというわけです。

情報操作による思い込みはこの世界にもある

本書に出てくるほとんどの人物が、見事にビッグ・ブラザーに染まっています。
党の発信する情報を信じ込み、党の決めたように動く。

一見すると「ありえない世界」。

じゃあこれ、本当にありえないフィクションの世界かというとまったくそんなことはありません。

一番顕著な例で言えば、独裁国家なんかがそうですね。

そこまで極端でないにしても、私たちだって知らず知らずの間にメディアや溢れる情報にミスリードされている可能性は否定できません。

本書を読んで、

「こんなもの信じて馬鹿だなあ」
「ありえない」

そう思った人だって、実は何かに、誰かに、既に思考を操作されているのかもしれません。

「思考犯罪」「表情犯罪」

主人公・ウィンストンのいる世界では、自由な思考を持つことは「思考犯罪」にあたるとあらすじでも書きました。

それだけでなく、「表情犯罪」と呼ばれる犯罪も存在します。

何しろ、顔に不適切な表情を浮かべること(例えば、勝利が発表されたときにそれを疑うような表情を浮かべること)それ自体が罰せられるべき罪なのだ。

ニュースピークではそれを表す罪名まで付いていた ー <表情犯罪>

引用:『一九八四年』(ハヤカワEPI文庫)

日本では基本的に思想や表現は自由。
なので『一九八四年』の世界みたいにそれだけで逮捕されることはありません。

じゃあ、みんな自由に考えて、自分を表現しているでしょうか?

おそらく自信を持ってイエスと答えられる人はほとんどいませんね。

「常識」や「人の目」を気にして、自分を抑えなければならない。
もし自分の考え方やその表現方法が世間の常識とはずれていたら、周りの人は時に「犯罪を犯した人」を見るかのような目で見てくる。

私たちの住んでいる世界にも、隠れた「思考犯罪」「表現犯罪」は存在しているのです。

『一九八四年』の世界ってもしかして幸せ?

本書を読んだ人に「こんな世界どうよ?」って聞いたら多くの人が「絶対にイヤだ」と答えることでしょう。

でも、本当にそうなのでしょうか?

確かに一見すると自由のまったくない世界なんてつまらないし幸せでないように感じてしまいます。
しかしそれは今の私たちの生活を前提に物事を見ているから。

もし、産まれたその瞬間からそんな世の中で、国は完全に管理され、それを幸せだと思い込むことができていたら?
もし、「自由こそが人間らしい生活だ」という発想すら介入する余地がなかったら?

究極的には、国の定めた考え方を本気で信じ込んで、自分たちのリーダーを信じて暮らすことができる。

「完全なる独裁国家」が存在するとすれば、逆にこんなに幸せなことってないんじゃないかとも考えられます。

結局自由の方がいい。「2+2=4」と言える自由

「完璧な独裁国家」が幸せだと仮定してもなお、やはり自由を認められた国の方が良いというのが結論です。

ウィンストンやジュリアが実際に疑問を抱いてしまったように、本当に完全な支配なんて現実的ではありません。
また、次世代のリーダーが無能だったら一気に崩壊するのが独裁国家の恐ろしい所だから。

わたしたちは自由を認められた世界に生きています。
しかし「思考犯罪」「表現犯罪」の項目でも見た通り完全な自由は難しい。

自由という箱の中で、結局なにかしらに制限されるのが現実。

そんなときは作中のこの言葉を思い出したいと思います。

かれらはこちらの行ったこと、口にしたこと、考えたことをすべて、細大漏らさず白日のもとに晒すことができる。

しかし心の内奥だけは、それがどんな動き方をしているのか自分にも分からないのだから、攻め落とされるものではない。

引用:『一九八四年』(ハヤカワEPI文庫)

『一九八四年』の世界では党が「2+2=5」と言えばそうなのであり、「2+2=4」という自由はありません。

たとえ対外的には「2+2=5」と言わなければならないとしても、誰も人の心の中まで入り込むことはできません。

自分の心の中だけは自分のものにしておく。
ここに、少し生きづらいと感じることもある今の世の中を自由に生きるヒントがあるように思います。

【まとめ】後味が悪いが、非常に考えさせられる

本書は、

  • 有名だけど読んだことがない
  • 挑戦したけど途中でやめてしまった

という人も多いのではないでしょうか。

いかんせん暗い!
全編を通して暗い!
そして結末も後味が悪い!

決して読んでてワクワクするような本ではありません。

でも、それにも拘わらず長く読み続けられる。
そこには理由があるんですね。

個人的にこの本の醍醐味は、一見ありえない作中の世界を自分に当てはめてみること。
(どんな書にもその要素は多かれ少なかれあると思いますが、本書の場合は特に)

記事に書いてきたように、本書の内容はありえないようであってその程度の違いこそあれ現実に起こっていることだと思うんです。

ウィンストンの生きる世界を通して、もう一度いま自分の生きている世界を考えるきっかけにしてみてはいかがでしょうか。

サクッと流れを知りたいだけならマンガ版もおすすめ!

 

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